詩 「笠山椿群生林にて」

「笠山椿群生林にて」

 

吹っ切れたのとは違う

あなた達がいたことを

もう忘れようとするのとも違う

 

こんなに《別れ》がつらいなら

体ごと音を立て地面に落下する椿は

さいごに何を思う

まだワッと泣き出しそうなほど

鮮やかな花弁脈を纏ったまま

赤く透けそうな心で

自ら縛り上げた屍を仰向けに浸し

さいごに何を思って

この冷えた萩の海に流れ出ていくのだろうか

 

 ーわたしだったら

  こんなに《別れ》がつらいなら

  人生で何度もこんな《別れ》はいやだよ

 

まだ幼かった日のわたしが

椿群生林の片隅で

小さな手を真っ赤にし樹皮を剥がしては

凍てつく椿の幹に何度も息を吹きかけている

 

ーカサ、という足音が聞こえ

幹から唇を離しこちらを振り返る

潮風に身をかがめ

ひとり林の中を歩くわたしを

膝の土を払いもせず

上目でただじっと見つめている

 

 ーじぶんがつくるかぞくはすくないほうがいいよ

 

 

*笠山椿群生林

 山口県萩市笠山にある、約二万五千本のヤブ椿が花を咲かせる群生林。毎年二月下旬〜三月下旬に見頃を迎える。

 

(2016.6「詩と思想」読者投稿欄)

(2019.2 詩集「秘境」収録)

 

 

#笠山椿群生林には私がまだ詩作を始める前に一度だけ行ったことがあるのですが、「息をのむ」とはこういう情景を言うのかと、群生林を覆う椿の赤、ざわめき...林の中を歩きながら、ただただ言葉にならないその迫力に圧倒され、離れがたい景色でした。

 

笠山に行かれたことのない皆さんにもその見事さをお伝え出来ればと思い、こちらが見頃時の椿群生林です。

(写真は萩市観光協会様よりお借り致しました、ありがとうございます)

 


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